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ワラビと訃報

水曜日, 6月 26th, 2013

 夜中や早朝にかかってくる電話に、いい話はない。この時間、電話が鳴ると胸騒ぎがする。この日は朝9時ごろになって、早朝に携帯に着信があったのに気づいた。親戚からの電話だった。かけ直してみると、従姉妹が亡くなったという。いやな予感はあたるというか、いい予感などあまりもったことがないから分からない。悪いとは聞いていたが、まだ59歳、これほど早いとは。翌々日、弔いのために東北・秋田新幹線から在来線に乗り継ぎ、静かな町に降りた。

  さっそく線香をあげにいき、親族と話をしたあと、亡くなった彼女の兄夫婦に誘われて夕食をともにすることになった。案内されたのは、品がよくこぎれいな料理屋。稲庭うどんのついた“御膳”を頼むと、「ワラビ食べますか」と従兄弟がいう。出てきたのは、小鉢に入ったゆでたワラビで、すーっとまっすぐきれいにまとまっている。生姜が上にのっていてる。こうしてワラビを食べるのは久しぶりだな、とぼんやりしながら口に入れると、その食感に「昔この秋田の田舎で食べたな」という記憶が蘇った。

 味覚で過去を思い出すというのは、あまりなかったことなのでこのこと自体が新鮮でもあった。田舎は母親の実家があったところで、子供の頃はときには夜汽車に揺られながら夏休みによくやってきた。母は兄弟姉妹が多いので、いとこの数も多く、彼らと賑やかによく遊んだものだった。亡くなった彼女もその一人だ。

 いまは実家はなくなり、いとこたちもほとんど田舎を離れた。みなそれぞれに忙しいようで、今回も顔を見ることはなかった。思い出話をしようにも、相手のいないなかで一泊して戻ってきた。ワラビのさわやかな食感だけが過去へのつながりとして残った。