あいまいな「日本人」 「日本人」は定義不能
土曜日, 9月 27th, 2025 2025年7月の参議院選挙で大躍進した参政党が訴えた「日本人ファースト」が議論を呼びました。「日本人だから日本人を第一に考えるのはあたりまえ」という支持者の声がある一方「外国人を排斥する排外主義につながる」という批判もありました。
アメリカのトランプ大統領は「アメリカファースト」を政治的スローガンに掲げています。これに対しては賛否両論ありますが、その意味するところが「他国の利益よりアメリカの利益を優先すべきだ」ということは理解できます。
これにならっていえば「日本ファースト」という意味はわかります。しかし「日本人ファースト」となったとき、それが排外主義につながるかどうかという議論の前に、そもそも「日本人」とは何なのかがはっきりしません。
日本人の定義は、一般に考えられるのが「日本国籍を持つ人」でしょう。しかし、日本国籍を持っていなくてもメディアで「日本人」と称されることがあります。例えば2021年にノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎氏はアメリカ国籍のアメリカ人ですが、「日本人のノーベル賞受賞者」と紹介しているメディアもありました。
2024年に行われた「第56回ミス日本コンテスト」で、グランプリに選ばれた椎野カロリーナさんは、生まれはウクライナですが名古屋で育ち2022年に日本国籍を取得しました。しかし、彼女の受賞に対してソーシャルメディアのなかに「椎野さんが「(日本との)ハーフなら問題ないが、民族的に0%の日本人だし、日本生まれですらない」などの批判的な意見が出てきました。
『国籍の?(ハテナ)がわかる本』(木下理仁著)では、国籍、国民、日本人、外国人と、ひごろわれわれが迷いなく使っている言葉が意味しているものがなんなのかを考えさせてくれます。その一例として大相撲の力士の国籍についてのメディアのとらえ方に考察しています。
2012年5月に旭天鵬が優勝したとき、2006年1月の栃東以来の「日本人力士」の優勝、と騒がれたのに対して、2016年1月に琴奨菊が優勝すると、栃東以来10年ぶりの「日本出身力士」の優勝と言われました。旭天鵬も琴奨菊も日本国籍をもつ日本人です。しかし、旭天鵬はモンゴル出身で、琴奨菊は日本生まれなので、旭天鵬は日本人力士で、琴奨菊は日本出身力士と呼ばれたようです。
著者は「日本の国籍を取って『日本人』になっても、『ホンモノの日本人』ではない、という意識がありはしないだろうか」と疑問を投げかけ、「国籍が日本でも、親の出身国や肌の色の違う人を『日本人』と呼ぶことに、違和感をおぼえる人がいるようだ」と指摘します。
以上の事例からみると単純に日本国籍=日本人とは一般には考えられていないようです。また、そもそも「日本人」を定義することはできないという社会学者の見解もあります。そのなかであえて「日本人は…」と協調する人は、自分が典型的な日本人(マジョリティー)だと信じて、自分の思い描く「日本人」という観念に基づいて「日本人は・・・」と言っているのではないでしょうか。
言い換えれば、自分は日本人だと思っていても、そういう人たちからは「日本人」だと見られない人も出てくるかもしれません。それが排他主義につながるのかもしれません。(川崎医療生協新聞より)
