Air Force が後ろからツンツン

 アメリカ建国の象徴のまちフィラデルフィア。週末の夜、レストランやバーが集まっている繁華街をぶらつき、軽い食事をしようとあちこちの店の様子をうかがう。いくつもの店で、大きな液晶のモニターがテレビ番組を放送している。
 シアトルでも同じだった。落ち着いた感じのレストラン、バーでもこのでかいモニターがかなりの音量と共に映像を流している。

 場所はさらにかわって南のフロリダ。庶民的なリゾートホテルのバーでは、モニターが大小4つもあった。ひとつはちょっとしたダイニングテーブルほどだ。ウィンブルドン、メジャーリーグ、ドラマ、そして多くのコマーシャルが同時に目に入る。
 でかい液晶モニターが安くなったからか、にぎやかなのが好みなのか、ちょっと一日の終わりにビールを飲もうと思っているものにとっては、映像も音も勘弁してくれと言うほど鬱陶しい。

 鬱陶しいといえば、ニューヨークのマンハッタンを歩いていると、いきなり耳の後ろで声がしてどきっとする。かつてこのミッドタウンでカバンを盗まれたことがあったので、過敏になっていたのかもしれない。

 振り返ると、Tシャツにスニーカーの男性がイヤホンでなにかを聞き、独り言をブツブツ言いながら歩いている人のように話していた。通話していたのだ。携帯電話でもいきなり耳元で声がしてはっとしたことはあるが、端末を持たずに話せるとなると、さらにどこでもいつでも声を発しているので、聞かされることもまた多くなる。

 場所と時間を選ばず、なんでもできるようになる。便利だが、なんでもものには程度というものがある。フォートローダーデールからロサンゼルスに向かう飛行機のなかでのこと。前に座るシートに液晶モニターが組み込まれていて、機内で映画やゲームができる。操作は画面へのタッチ式だ。

 私の斜め前の赤毛の中年女性が、これでポーカーゲームをしていた。熱中しているようだが、液晶のタッチのポイントがすごく小さいこともあって、白いマニュキアの“ゴージャス”な指では今一つ反応しない。ボールペンを取りだし先っぽで突いたがこれもダメ。

 そのうち苛ついてきたのか、指で力強く何度か押している。当然、前の人のシートは頭のところがそれに合わせて前に動く。これを何度も繰り返している。
「ツンツンと押される前の人は嫌だろうな」と、同情していると、私の後頭部もツンツンと小さな衝撃を感じた。どうやら液晶をタッチしているらしい。

 気に障るので反対に少し押し返してみたが、相手は気がつかないのか、やめる気配はない。眠れないし、あまりつづくようだったら何か言おうかと思って、チラッと後ろを見ると、迷彩服に身を包んだ軍人だった。
 搭乗口で見かけた「Air Force」(空軍)の若者たちの一人だ。しばらくしてこのツンツンは収まったが、Air Forceに後ろから頭をツンツン攻撃されているかと思うと、鬱陶しいことこの上なかった。


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ツンツン


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