変わる人、まち、東京タワー

 ニューヨークで仕事をする古い友人が17年ぶりに日本に帰ってきたので、都心で昼食を共にすることになった。
「景気が悪いって言っているけど、思ったほど東京は変わってないね」。彼はそう言った。

 私の方は、都心に出るのは一ヵ月ぶりくらいで、その日は都内に泊まり、翌日港区麻布台の外交資料館へ調べ物に出かけた。
 閉館までいて外に出ると風が涼しく気持ちがいい。ぶらぶらと夕暮れ時を飯倉の交差点から神谷町の地下鉄駅まで歩くと、途中小路に入ったところで目の前にどーんと東京タワーを見上げることになった。

 なかなかいいバランスで、いかにもタワーと呼ぶに相応しい尖った二等辺三角形を形作っている。しかし、いつもこのタワーをみるとキングコングかゴジラがまつわりついている図柄が頭に浮かぶ。

 相変わらずなタワーに刺激されたのか、いろいろなものが懐かしくなり、その足で昔なじみの神田の飲み屋へ向かった。時々訪れたスポーツ用品店は、サーフィンからスノボーにメインが切り替わっている。飲み屋を訪ねるのは2ヵ月ぶりくらいだった。

 まだ早い時間一人お客がカウンターにいた。アロハを着た初老の男性だ。ビールを注文し、以前よくこの店で顔を合わせた常連さんの話になった。
「○○さんはよく来ますか?」
「ええ、でも今度いよいよ会社辞めることになったらしいですよ」

 どうやら早期退職のようだが、本人も望んでいたことなので、いまは退職後の計画を練っているらしい。南の方に移住するという話は以前から聞いていた。
「××ちゃんは?」。深夜の常連の女性についてたずねた。
「そうね、最近余り見かけないけど・・・」

 短い間の変化だが、なんとなく時の流れを感じた。そのうちカウンターの客が帰った。長年勤めた会社を辞め再就職先を探しているらしい。

 互いにへたくそながら店主とふたりでサーフィンの話になると、私も知る彼のサーフィン仲間が一人ガン治療のためしばらく海を離れたという。
「いつもインサイドで乗っているのが、アウトサイド(沖)にいるから、どうしたの今日はってきいたら、“最後だから今日はアウトから行くんだって言ってましたけどね」と、治療前の海での様子を、店主がやさしく語った。

 大きく見ればそれほど変わらない東京で、人の生活は日々変わり続けている。台風が近づいている。波は上がって海はクローズになる。   


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