海辺のコンビニ、いじらしい猫

 ときどき早朝散歩に出る。国道134号をわたって海沿いの遊歩道を江ノ島の方に向かって自転車でゆっくり走る。見晴らし台までだいたい10分。そこで波のあるときは、サーファーたちをしばらく上から眺めている。

  うねりが来ると、ボードを反転させ態勢を整えてパドルをはじめる。やがて波に押されるが、ここでうまく波をつかまえる者と、何が悪いのか波をつかまえられない者に分かれる。うまくいったボードは波とともにスーッと海面を滑っていく。
 不思議なもので、何度見てもこれは飽きない。どれ一つとして同じ波がないからだろう。とはいってもいつまでもそうしているわけにはいかない。来た道を西へ向かって戻る。晴れた日は、真っ白な砂糖をかぶった洋菓子のような富士山が姿を現す。

 漁港の近くまで戻り、ふたたび国道を渡るとコンビニの前に出る。ときどきここになんとなく立ち寄っては野菜ジュースや肉まんなどを買い、新聞各紙の1面の見出しを見る。

 あるとき、店内に入ろうとすると一匹の猫がいる。どこにでもいるような白と黒っぽい毛がまじった小さな猫だ。早朝で人の出入りはまだほとんどない。猫は、両開きのガラス戸の前のちょうど真ん中に座って、だまってガラス越しに店内を見ている。

 その向こうは、猫にとってはきっと食べ物の宝庫に見えるのだろう。中に入りたいのだろうが、そこは礼儀をわきまえているようでただいじらしくじっと座っている。店内の客が出てきても入れ替わりに入ろうとはせずさっと離れてしまった。しばらくみていると、またしばらくして入り口の近くまでやってきた。
 私は別に猫好きではないが、この猫のしぐさには何か同情を誘うようなものがあった。ショーウィンドウ越しにトランペットをずっと眺めているような黒人少年の逸話をふと思い出した。あれはサッチモのことだったろうか。
 その後もコンビニに行くたびに猫を見かけたが、実はもう一匹似たような大きい猫もいることがわかった。年配の女性の店員に二匹のことを聞いてみると、「野良なんです。でも、いついちゃって」と、優しい顔をした。

 その後、二匹はこのコンビニの飼い猫のようになって、いまではすっかりリラックスして暮らしているようだった。しかし、飼い猫として認められたとはいえ相変わらず節度は守ると見えて、けっして中に入ろうとはせず、ガラス戸の前でじっと中を眺めている。
                            


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