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大企業と効率と見せかけの安さに惑わされ、輸入に頼る仕組みを作ってしまった日本の食の危機

金曜日, 12月 10th, 2021

 ガソリンの高騰をはじめ、さまざまな面でじわじわと消費者生活に影響を与える現象が起きています。また、最近では需要の回復でコンテナ輸送費が急騰し輸入品全般が値上がりしています。報道によれば、この9月の輸入物価指数は、1年前と比べて30%余上昇し1981年以降では最大の上げ幅となりました。
 こうしてみるとコロナは、生活に必要なものの自給率の低さをあぶりだしたともいえます。とくに、生きていく上での基本となる食料自給の問題は深刻です。
 2011年3月の大震災のとき、地震発生10日後に私は青森県に入り、車で南下して現場の取材を試みましたが、被災地に近い青森県のコンビニやスーパーでも食料品が不足していました。日ごろはどこの店にもあふれるほどの食品が並び、フードロスが話題になる日本で、「こんなにもすぐに食品は途絶えるのか」と驚いたものでした。
 この記憶があるので今回のコロナ禍での食の安全保障を考えたとき、今後、国際的なパンデミックや紛争、あるいは内外の大規模災害などが発生した場合、日本は食料的な危機に陥らないだろうかと心配になります。
 こうした懸念を残念ながら裏付けるのが「農業消滅-農政の失敗がまねく国家存亡の危機」(鈴木宣弘著、平凡社新書)です。今年7月に出版された本書の著者は、東京大学大学院農学生命科学研究科教授で、これまでも日本の農政に警鐘を鳴らしてきましたが、本書ではコロナ禍によってより浮き彫りにされた危機も示されています。


 2020年3月から6月の段階で輸出規制を実施した国は19ヵ国にのぼるなかで、いま、日本の食料自給率は38%。この数字をどう見るか。著者はこう解説します。「FTA(自由貿易協定)でよく出てくる原産国ルール(Rules of Origin、通常、原材料の50%以上でないと自国産と認めない)に照らせば、日本人の体はすでに『国産』ではないとさえいえる。」
また、「牛肉、豚肉、鶏卵の自給率はいま11%、6%、12%だが、このままだと2035年には、それぞれ4%、1%、2%になってしまう」と試算します。
 さらに野菜や穀物の源である「種」については、政府が、農家ではなく種を扱う企業寄りの制度変更をとったため海外依存度が高まり、「米も種採りの90%が海外でおこなわれ、物流が止まるような危機がおきれば米の自給率も11%にまで低下してしまう」と憂慮します。
 このほか、貿易交渉の姿勢も自動車などの輸出を伸ばすために農業を犠牲にしていること、消費者が安さだけを求めていては、農家が疲弊しひいては国内生産が縮小し、同時に海外に依存することで農薬や添加物の進入し、総じて食の安全が損なわれると訴えます。
 大災害、パンデミックなど思いもよらない事態がこの先も起きるでしょう。そのときパニックに陥らないためには、著者が主張するように、コモンズ(共用資源)を重視して市場原理主義に決別し、地域の種からの循環による共生システムをつくってていくべきです。