深夜の悩みとラジオデイズ

 ラジオの深夜放送全盛時代、ティーンエイジャーはラジオのディスクジョッキー(DJ)に対して、はがきを書いたり、電話でラジオでながす曲をリクエストした。そして人気のDJには“人生相談”、“悩みの相談”をもちかけたりした。
 DJはこれらに真摯に答え、ラジオの前の同世代の男女は、深夜でなければ考えられないようなシリアスな話しに耳を傾けていた。今は亡き、野沢那智、土居まさるなど、いろいろなDJがはがきを読み上げ、結構真剣にリスナーに語りかけていた。

 こういうDJのなかで一人だけ絶対にこうした相談事にかかわらない人がいた。もっとも年齢の高い、糸居五郎だ。「ゴーゴーゴー、イトイゴロー、ゴーズオン」という決まり文句で、流行音楽とは一線を画して、独自な選曲でファンキーな曲を流していた。音楽について職人気質の人だった。

 彼が亡くなってからあるテレビ番組彼のことを特集していた。その中で印象的だったのが、彼が若者からの人生相談などを一切受けなかった理由である。正確には忘れたがこんなことを言っていた。
「だって、リスナーにとって私はラジオの向こうのただの他人ですよ、その私になにがこたえられます?」

 彼がいなくなってから30年近くたつが、いまの若い人は、いや年配者もか、誰かとつながりをもちたくてしかたがないようで、フェイスブックなどでネットワークを広げている。そして、さまざまなネット上の掲示板で悩みをこぼしあい、どこの誰かわからない人に答えを求めている。

 当時に比べれば格段に相談する手段や相手は増えた。今夜もどこかの誰かが、どこの誰ともわからない人に人生の悩みを打ち明けている。無責任ゆえに気軽に、明日になったら忘れるような問いと答えがネット上を行き交っている。 


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